大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成10年(ラ)882号 決定

抗告人

株式会社ツー・エム化成販売

右代表者代表取締役

牧野友紀

代理人弁護士

中田順二

相手方

原田尚明

主文

一  本件執行抗告を棄却する。

二  抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

第一  本件執行抗告の趣旨及び理由

別紙執行抗告状及び執行抗告理由書(各写し)記載のとおり

第二  当裁判所の認定及び判断

一件記録による当裁判所の認定及び判断は、以下のとおりである。

一(1)  相手方は、基本事件(共有物分割による換価のための競売事件)において、原決定添付別紙物件目録(1)(2)記載の不動産(本件土地建物)を買い受け、代金を納付して本件引渡命令の申立に及んだ。

基本事件の申立は平成八年二月一六日であり、本件引渡命令申立については、平成八年法一〇八号による改正前の民事執行法八三条(旧民執法八三条)が適用される。

(2)  本件土地建物は、もと牧野乙女子が所有していたところ、昭和五五年九月一一日同女の死亡により牧野修二(乙女子の次男、昭和五九年一一月一五日死亡)及び牧野和夫(乙女子の四男)がそれぞれ二分の一の持分で相続取得した。

修二は、同年六月四日その二分の一の持分を牧野友紀(修二の妻、抗告人の代表者)、牧野孝則及び牧野由未子(いずれも修二と友紀夫婦の子)に贈与し、この結果、本件土地建物は和夫が二分の一、友紀らが各六分の一の持分割合で共有することとなった。

(3)  本件建物には、乙女子死亡後は牧野静郎(乙女子の夫で和夫と修二の父、平成三年六月三〇日死亡)が単身で居住していたが、その死亡後の平成三年一〇月ころから、友紀が和夫の了承を得て抗告人の業務用洗剤等の商品を置いて占有使用するようになった。しかし、和夫は、共有者である友紀が個人として本件建物を占有使用することを了承しただけであって、抗告人に使用借権を設定する意思はなかった。

(4)  平成三年末ころ、和夫と友紀の間で、本件土地建物を第三者に売却換価して分割する旨の合意がなされたが、売却価格をめぐって折り合いがつかず、バブル経済崩壊に伴う不動産価格下落の進行もあいまって、上記売却計画は頓挫した。

そこで、和夫は、平成七年二月二四日に本件土地建物の競売による換価分割を求めて共有物分割請求訴訟(京都地方裁判所平成七年(ワ)第四一四号)を提起し、友紀らは、和夫の持分の買い取りを求め、それが不可能ならば五年間の不分割を求めるなどとして争ったが、平成七年一一月一三日本件土地建物の競売による分割を命じる旨の判決がなされ同年一二月一日確定した。

和夫は、平成八年二月一六日上記確定判決に基づき本件土地建物について競売申立をし、同月二九日不動産競売開始決定が、同年三月一日差押登記がなされた。

(5)  抗告人は、昭和五九年一二月二八日に工業用洗剤の販売、不動産の売買、仲介、賃貸借並びに管理業等を営む目的で設立され、資本金は一〇〇〇万円、株式の譲渡につき取締役会の承認を条件として定めるいわゆる小規模閉鎖会社で、宅建主任の資格を有する友紀が代表取締役を務め、友紀の住所地を本店所在地とするなど、実質的には代表者である友紀の個人企業ともいえる実体にある。

(6)  友紀らと抗告人間には、上記共有物分割請求訴訟の提起される直前の平成七年一月四日付けで、本件建物につき期間三年、賃料月額一万五〇〇〇円、敷金一〇万円、利用目的商品置場との約定の賃貸借契約書が作成され、同年八月三一日には同旨の賃貸借契約公正証書が作成されている。しかし、右賃貸借の締結については、二分の一の持分を有する和夫はこれを了承していないのはもとより、友紀から和夫に対し何らの申し出もされておらず、その締結は、過半数に満たない二分の一の持分を有するに過ぎない友紀らにより、その独断でなされたものである。

二(1) 民法二五一条、二五二条により共有物の管理変更の手続を定め、民法二五六条により共有物の分割請求権を認めた法の趣旨及び競売手続における引渡命令の機能等に鑑みれば、共有物分割による換価のための競売の手続においては、旧民執法八三条一項に定める「権原」とは、民法二五一条及び二五二条所定の手続により使用借権ないし賃借権等の設定を受け、共有者全員に対し占有の適法性を主張しうる場合に限定されるべきものであり、上記手続を経ることなく一部共有者から使用借権ないし賃借権の設定を受け占有しているに過ぎない第三者の場合には、上記「権原」を有するものとは認められず、上記第三者は引渡命令の相手方となると解するのが相当である。

(2) これを本件についてみるに、上記認定のとおり、抗告人の主張する使用貸借及び賃貸借は、過半数の持分を有しない友紀らが、民法二五一条又は二五二条の所定の手続によらずその余の共有者である和夫に無断でしたものであって、抗告人は旧民執法八三条一項の「権原」を有するものではなく、引渡命令の相手方となるというべきである。

(3) なお、最高裁昭和六三年五月二〇日第二小法廷判決(判例時報一二七七号一一六頁)は、共有者の一部の者から共有物を占有使用することを承認された第三者に対しては、その余の共有者は、当然には共有物の明渡を請求できない旨判示しているところであるが、明渡が認められないとしても、上記第三者の占有がその余の共有者に対する関係で適法になるわけのものではないし、もともと上記判決は、共有関係の解消を目的とする競売手続の場合について言及するものではないのであるから、上記の解釈がこれと矛盾抵触するものでないことはいうまでもない。

(4)  のみならず、上記認定のとおりの抗告人の実体及び共有物分割請求訴訟の提起される直前に、和夫の同意・協議もなく締結されたことなどの諸事情を総合考慮すれば、上記賃貸借契約は、適正な共有物物件の競売手続を妨害する目的でなされたものというほかはなく、この観点からしても抗告人には引渡命令の発令を妨げるべき正当な理由はないというべきである。

三  よって、原決定は正当であり、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人の負担として、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官中田耕三 裁判官高橋文仲 裁判官辻本利雄)

別紙〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例